役に立つ寄生虫
 
東京医科歯科大学医学部教授 藤田 紘一郎 氏
--------------------------------------------------------------------------------
皆、寄生虫症。なのに肌ピカピカのダヤク族
外国で熱帯医学でもやろうと思って、ボルネオ島で昔「首狩り族」と言われたダヤク族の健康調査に行ったんです。そしたらなんと、そこではみんなが回虫、蟯虫、鞭虫にかかっている。寄生虫にかかっていない人がむしろ異常なんです。汚い川で村中の人が水浴びをし、便を流し、同じ水で食事を作っている、日本の衛生観念から言ったら、めちゃくちゃでしょう。ところがですよ。われわれから見たら、そんな常識外な汚い生活をしている彼らは、肌が日本人よりぴかぴか、すべすべして、黒光りしているんです。その上、アトピー性皮膚炎、花粉症、ぜんそくの人が一人もいない。
──われわれの考えている「衛生的」ということは、必ずしも人間の健康に適しているとは限らないんですね。
藤田 そうでしょう?これは寄生虫が何かいいことをしているんじゃないかと思って、一生懸命に寄生虫をすりつぶしてそこからアトピー等を予防する物質を抽出しました。回虫などがアトピーや花粉症を予防していることを20年くらい前に立証して、アレルギー学会でもしゃべっているんです。でもほとんど無視されました。「今時、寄生虫なんて・・・」というわけです。それで、もうこれは医者や学者なんか相手にしていては駄目だ。一般の寄生虫をよく知らない若い人達に、寄生虫の良さを分かってもらおうと思って、本を書いたというわけなんです。
--------------------------------------------------------------------------------
寄生虫を利用しながら「共生」していく道を
──寄生虫は悪者だと思って一生懸命退治してきたけど、結局退治しきれなかった。それどころか時代のトレンドに乗って人間に逆襲を始めたというわけですね。
でも、さっきのダヤク族の話などを伺いますと、決して寄生虫は人間にとって悪者ではないという気がします。ましてや、世の中のもの、自然界に存在するものは、必ず何らかの役割を持っているはずで、人間が勝手に悪者だとか、無駄な物だとか決めつけてしまうのは間違いではないか・・・。
 
藤田 まさにその通りです。日本人はすぐ善悪を決めつけてしまいたがるけど、本来いいヤツ、悪いヤツというのはないんです。
例えば、善玉コレステロール、悪玉コレステロールと言いますが、それは心筋梗塞を起こすか起こさないかということで決めているのであって、実は悪玉といわれているコレステロールに、人を男らしく、あるいは女らしくする性ホルモンをつくる働きがあるということは、あまり知られていません。
 
──人間社会でも同じことが言えると思います。どんな人にもいい点悪い点があって、○×なんかつけられないですよね。
 
藤田 そういう意味では、これまでの西洋医学のような、病原菌や寄生虫を頭ごなしにやっつけようという考え方ではなくて、相手を逆に利用しながら共生していく道を模索していった方がはるかに意義があると考えます。
 
あのエイズにしたって、アフリカにはすでにウイルスと共生している人達が出てきているんです。治療するというより、かかっても発症させない方向へ持っていく方が早いのではないかと思います。
 
──先生も、サナダ虫と共生していたことがあるそうですね。
 
藤田 ええ。花粉症ばかりでなく、ダイエットにも効果があるんですよ。「サトミちゃん」と名づけて飼っていましたが、残念ながら不注意で暴飲暴食し「流産」してしまいました(笑)。