゛歯の治療の一大革命″
一歯はできるだけ削らない−

「ブラックの理論は否定」
1990年FDIのメインテーマである。といっても、一般の人にはわからないと思う。
つまり歯の治療で歯を削るときの削り方の原則が、今回変わったのである。
専門的には、充填物に対する窩洞形成理論の変更という
(おどろくべきことに、ブラックの理論はほとんど改訂されることもなく、ほぽ1世紀近くも世界
中の大学で教育されつづけ、臨床では患者の治療に用いられてきた)。どう変わったのか。

一口で言えば、歯を出来るだけ削らないようにし・な・け・れ・ば・な・ら・な・い・、と変わったのである。
天然の歯質部を出来るだけ削らないでムシ歯の処置をせよ、ということだ。
あたりまえといえばそれまでだが、福音にはかわらない。
できるだけ歯を削ら(せ)ない!!
ムシ歯の治療の際、ムシがくっている部分のみを削り、つめる。
決して大規模・広範囲に拡大しないで、小さく小さく処置する

歯科材料の発達によって、この理論は変更出来たという背景もあるが、
それ以上に、世界の趨勢である過剰処置を減らせという流れにそったことは明らかである。
現在Γ信じられないほどの過剰切削だ」と外国から指摘されている、日本の歯科界はさら
に、この決定を実行していく責任が生じた
(FDIはWHO傘下団体であるため決議事項には行政的拘束力がある)。
 
次に、今後早急に改善が望まれている点をあげてみよう。
@学校検診や定期検査のあとごそっとでてくる、早め早めの早期治療
(早期治療は本来、予防・指導・むし歯の進行止め薬塗布など
歯牙切削回避の方向性を主としなければならないのに、
逆に歯の早期切削充填処置の青田刈りの場になっている)

AΓ今回まとめていっしょに治そう」と
数歯〜20数歯にわたって連続して削ってつめる、かぶせる同時一括切削治療

B性別・年令・個体差・加齢現象などを考慮にいれない機械的画一的無国籍的治療

C自然治癒力のないムシ歯の治療を前に、
ただ単なる修理補充術が診断と歯科医師も患者も錯覚していること
(全身医学の中の歯科医学という思想や体系の欠如)

D治療が適切でなければ、その後歯のかみあわせが狂って
医原性の顎・偏・位・症・になってしまうこと。
歯のかみあわせの狂いは、実にこわい。

そのこわさについては、本年1月31日付の朝日新聞にも掲載された。
歯のかみあわせが狂うとアゴがずれ、全身に種々の症状をおこしやすい。
その顎偏位症の解明。
 
前後のよい天然歯を削ることになるブリッジ、見た日だけよくしようとする美容歯科、
生体侵襲の激しいインブラント(人工歯根)、
不用意な歯科矯正、不必要な歯科各種外科手術に対する
反省や糾弾は、すでに開始された。

天然記念物である貴重な肉体のなかで、口の中はどうなっているか。
通常、幼児にはじまり、小中高成人壮年にいたる長い間に、
数多くの歯科治療がなされ、その過剰な人為的処置ですさまじく荒れたり、
又各種金属人工物でまさに人工記念物となっているではないか。
そしてその記念物は崩壊の危機に瀕しているものが多い。

地球的規模で環境保護が叫ばれているなかで、口の環境保護は、
歯科医師・患者双方が歯をできるだけいじらないこと。
治すときは必要最小限にとめる。

へたにいじって歯のかみあわせが狂ったら大変。慎重に慎重に。
 
今回のFDI決定は、今後の大変革の前兆にすぎない。
だからこそ、英国厚生省は、自国内に向けて
「この変革についていけない歯科医は職業人として無能である」
と強い口調で警告しているという。
今後我々は厚生省・歯科大学・歯科関係団体の対応に注目するとともに、
各々歯科医とは十分御相談下さい。
 
一人でも多くの人に、このことを…。
1991.4.  日本心身歯学研究会  加藤 吉晴

患者さんの為の医療か、歯医者の為の医療か

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